鮮やかだった景色が ぼんやりとかすみ 蝉の声が雨のように 降りそそいで 雑木林から 子鹿がでてきた。  きっと この春生まれたばかり。 よろよろ、ぴくぴく、きょろきょろ。  すこし後ろから、母鹿が静かにあらわれた。  子鹿が乳を飲みはじめた。 細い脚をふんばり 首を伸ばして あごをいそがしく動かしている。 母鹿はずっと 子鹿の体をなめている。  やがて子鹿は 脚をぴんぴんさせて歩きだした。 母鹿は頭をあげ ゆっくり後をついていく。  そしてしばらく 木立のあいだに 子鹿の背の模様だけが 白くはずんでいたけれど かたむいた大木に からんで垂れさがる ツタの束がゆれて 観るものをさえぎった。 まるで舞台の 幕をひくように。  深いため息をついた わたしの耳に ようやく音がもどってきて 蝉の声が 勢いを増した。 ちょうど観客の 拍手かっさいのように。  毎日ちがう、新しい何かが ひそやかに披露される この広い 裏庭のステージ。  生き物たちが あちこちから声をあげて つぎの出番をまっている。  オースチン補習授業校(テキサス)         中二 髙橋 ムーア 紀更(きさら)  野に生きる情景劇